暁明星学園中等部3年生の斎宮冴は除霊術斎宮流の当主で、父が埋蔵金を探しに出奔したあとは一家の大黒柱として生活費から学費からすべてを稼ぎ出さなければならない。密教や神道など様々な流派を取り入れた斎宮流であるが、冴が得意としているのは浮遊霊を成仏させるかわりに働かせるというもの。学園の高等部の「心霊研究会」部長、百日目鬼孝一が部室に現れた怪異を解決してほしいという依頼をしにくる。怪異を引き起こしたのは少年の生き霊だった。その少年とは、新興宗教「気高き眠りの会」の霊能者であり、その会は実母の弟に乗っ取られかけている。冴は少年の実母からの依頼で少年の霊を体に戻す手助けをすることになったが……。
作者がオカルト・コメディに挑戦した。ヤングアダルトに多いパターンの設定ではあるが、作者はストーリーに宗教団体の内紛などを重層的に盛り込むことにより、サスペンス的な面白さを付け加えた。霊の存在などにきちっとしたルールをあてはめているあたり、SF作家ならではの構成である。
同じような設定であっても、本格SFの書き手にかかるとひと味違うものになる。実力派の作者ならではの安定した筆致を楽しむことができた。
それにしても本当に作品の幅を意識して広げているのだなあと感心する。次はどのようなテーマに挑戦していくのか、今後も目が離せない。
(2004年4月3日読了)