読書感想文


瑠璃の翼
山之口洋著
文藝春秋
2004年1月10日第1刷
定価1905円

 飛行機に憧れて陸軍に入隊し、機関銃の名手となって、戦法の変化から戦闘機に機関銃を搭載するようになったおかげで念願の飛行機乗りとなった野口雄二郎。彼は満蒙国境の守備のために編成された「稲妻戦隊」を率いる名指揮官となる。しかし、関東軍は参謀辻政信の無謀な戦略によって現場の兵士の伝える状況も無視した作戦を立て始める。モンゴル軍に加えてソ連軍が戦闘に参加、ついに満蒙国境で戦闘が始まった。「ノモンハン事件」と呼ばれる戦争の開始である。一貫した戦略で臨むソ連軍に対し、関東軍はたびたび戦略の方針を変更、そのたびに現場の兵士たちは若い命を散らしていく。「ノモンハン事件」の失敗の責任をとる形で予備役にまわされた野口は、新しい働き場を満州国に求める……。
 作者の実の祖父を主人公にし、その生涯を小説という形でまとめあげた力作。「ノモンハン事件」の実相や、当時の陸軍航空隊と軍の中枢の実体などが、豊富な資料を元に克明に描かれる。
 作者が長年あたためていた題材だけに、戦争の現実などが正確に再現されていく。ただ、小説として考えた場合、淡々と事実を書き綴っていくという本書の方法では、物語に引き込まれていくという快感を味わうのには辛いものがある。ドラマとして、メリハリがきいてないというのか。盛り上げる場面はたたみむこようにかいてもらわないと、読み切るのは少しばかり根気がいったのも事実だ。力作には違いないのだが、小説としての面白さはまた別ということを実感させられたのである。

(2004年4月13日読了)


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