読書感想文


凹村戦争
西島大介著
ハヤカワSFシリーズJコレクション
2004年3月31日第1刷
定価1300円

 作者初の単行本となる書下ろしコミック。
 人里離れ、テレビの電波も携帯の電波も届かない凹村。しかし、×の形をした物体Xが宇宙から飛来したことにより、否応もなく外へ関心を向けざるを得なくなる。凹村中学に通う凹沢アルは、物体Xは火星人のものであると信じ、火星人と戦う決意をする。しかし、物体Xはたいていは凹村を飛び越して東京方面にいってしまうのである。東京の混乱を知っているのは同級生の凹伴ハジメ。彼はネットの掲示板で情報を集める。地元の子どもはみんな凹高に進学するのだが、凹沢は東京から出戻ってきた凹瀬戸先生の示唆もあり、東京の高校を受験することにする。もちろん火星人と戦うために。
 過去のSF映画へのオマージュだろう、ガジェットとしてSF映画やドラマのタイトルやモチーフが引用される。それはよいのだが、残念なことにそれらを十分咀嚼して新たなものに構築できているかというと、どうもそれが感じられなかった。閉じた村の閉息感を出したかったのだろうが、この場所が閉じているという感じがあまり伝わってこないのも辛いところだ。何よりも登場人物が少なすぎる。主人公やその友だちはともかく、大人が先生とレンタルビデオ店の主人だけというのは不自然である。重要な役割は果たさなくてもよいが、その存在をまったく感じさせないというのは何か意図があってのことだろうか。
 漫画というのはビジュアルで多くの情報を発信できるのものだと思うのだが、これだけのページ数を費やしながら伝わってくる情報が少なすぎる。むろんあえて省略するケースもあるわけだが、本書の場合はこの物語ならば書き込まなければならないものが書かれていないというように思うのだ。
 作者が伝えたい「最悪で滅茶苦茶で容赦ない世界」を描くのに、ナンセンスになり切っていない。そう感じた。理論的にナンセンスを組み立てようとしたのか、あるいはナンセンスのつもりで書いたけれども作者の理性がそれを妨げたのか。作者の資質と書きたいものの方向性がなにか食い違っているような、そんな印象を受けたのである。

(2004年4月18日読了)


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