プロ野球に関して確かな視点で文章を発表し続けているスポーツライターである著者が、雑誌や新聞に書き綴ってきたものをまとめた一冊。若干のタイムラグのあるものは加筆訂正をして刊行の時点で違和感のないようにしている。
快哉を叫びたくなるような意見が本書にはいくつも収められている。例えば、長嶋茂雄五輪代表監督に関しては、著者は「読売巨人軍終身名誉監督」なる地位を返上すべきだと書く。いくら長嶋監督がオリンピックのために尽力しようと、この地位があるが故に巨人軍の人間であるということで抵抗をされるのだ。あるいはヤンキースの松井秀喜外野手については、もし彼が巨人軍時代のようにホームランを意識したバッティングをしてメジャーでもホームランを量産すれば、アメリカのファンは決して喜ばないのではないかと推測している。なぜならばホームランこそがアメリカ人の誇りであり、いくらイチローが驚異的な打率を稼いでもそれはその誇りを脅かすものではなかったが、ホームランとなるとそうはいかないからだ。それを証拠づけるために、著者はロジャー・マリスがベーブ・ルースの年間本塁打記録を破った時のエピソードを詳しく紹介している。
著者や海老沢泰久、玉木正之、赤瀬川隼といった良識のあるスポーツライターや作家の言葉にきちんと耳を傾ける者がプロ野球機構にはいないのだろうか。プロ野球ファンはもちろん、コミッショナーや球団のオーナーたちにぜひとも読んでもらいたい一冊である。
(2004年4月18日読了)