長谷川瑛蘭は火事に巻き込まれそうになった友人を助けようとして、魔法を使う力を発動させる。魔力を持った少年は、その力をコントロールすることを覚えさせられるために「青少年健全育成センター附属魔法学校」に無理矢理入れられてしまう。彼はそこで魔力を持った少年たちとの共同生活を始めさせられることになる。魔法のいろはも知らぬ瑛蘭は、同室の琴野や永井らとどのように接していいかもわからない。ところが、入学早々彼は他人の夢の中に入り込んでしまい、その間に肉体は死亡状態になるという特異な体験をする。それこそが彼の持っている「癒しの魔法」が発現したということだったのだ。瑛蘭に定められた使命とは何か。瑛蘭は魔法の力をコントロールできるようになるのか。
少年の成長を描いた正統派のヤングアダルト小説である。魔法学校であるからといって、作者は決して何でもできる便利な力として魔法を扱ったりしない。体系だてた論理によって組み立てられた、しかし少数派ゆえに子どもの頃から一般社会から隔離されなければならないものとして、魔法は描かれている。いわばSFで伝統的に描かれてきたエスパーと同じ扱いなのである。
ただし、作者は「魔法学校」という設定を用いて、主人公の疎外感を最少限度に抑え、同じ疎外感を味わう少年たちとの交遊の中で自己を形成していくという形をとった。このありかたは、例えば障害児教育にも通じるものがある。主人公たちは自分の中にひそむ「魔力」を受け入れ、そして社会の中での自分のあり方を考えることになるのである。
作者と同世代で同時期にデビューした少女向け小説の作家の多くは、現在は大人向けの作品を書いて多方面で活躍している。しかし、作者は現在でもこのように若者向けの小説を書き続けている。他の作家のように転進することは、作者の力からいって不可能ではなかっただろう。しかし、作者は本書でもその頃から変わらぬみずみずしい感性を保ち続けている。これはなかなか難しいことだろうと思う。もちろん、向き不向きもあるのだろうが、こうやって作品を発表し続ける作者の力量にはいつも驚かされるのである。
(2004年5月1日読了)