少女漫画雑誌の裏表紙に掲載されていた漫画広告「日ペンの美子ちゃん」。初代の美子ちゃんを執筆していた矢吹れい子の正体は中山星香であったというのは有名な話だ。しかし、二代目以降の作者については、そして、いつ始まっていつ終ったのかなど、知られていない事実は多い。
本書は、その「日ペンの美子ちゃん」を多数再録した上で、書き手たちの正体や近況、4人の美子ちゃんの比較などをしたものである。漫画広告といういわばそれこそ読み捨てされる存在をこのような形でまとめたというだけで、本書には大きな意味があるのではないか。
ただ、著者が一時流行した一連の「謎本」のスタッフの一人という経歴もあってか、内容的には「謎本」的な一部分をとりあげてあたかもキャラクターのすべてを解き明かしたかのようなつくりになっているのは少々残念。それよりも広告主の「がくぶん」の当時の担当者へのインタビューや、実際に日ペンに入会したことのある人の寄稿などがあればもっと面白いものになっただろうと思う。相川七瀬や中村うさぎ、浜四津敏子など、漫画とは直接関係のない人物へのインタビューにどれだけ意味があるというのか、はなはだ疑問である。特に版元が某宗教系の出版社ということで浜四津議員へのインタビューを入れなければならなかったのだろうが、どう考えても無理がある。
あの「日ペンの美子ちゃん」を扱うという面白い企画も、内容にもう一歩踏み込んだものがないのでは、と思う。せっかくもとの漫画の再録を許されているのだから、それに見合ったものであってほしかった。そうでなければ、現存する「美子ちゃん」の原稿を全て掲載し、謎解きの部分は最小限に抑えるべきだろう。
とはいえ、広告用の漫画にスポットを当てたという点では、画期的な本ではある。それだけ「日ペンの美子ちゃん」が少女漫画ファンに愛されていたということなのかもしれない。
(2004年5月16日読了)