読書感想文


走る!漫画家 漫画原稿流出事件
渡辺やよい著
創出版
2004年5月7日第1刷
定価1500円

 ファンのメールから、自分の書いた原稿がネットオークションにかけられていることを知った著者は、その原稿がいまだに原稿料未払いとなっている小さな出版社に渡したままのものだったことを知る。オークションに出していた人物と連絡を取ると、それが漫画専門の古書店で販売されていたものだったことが判明する。古書店に連絡をとっても、正当な方法で入手したものだから買い取れという。漫画の原稿依頼はたいてい口約束で、納品書も作っていないため、それが盗品だと証明できず、警察は刑事事件として扱ってくれない。取り置きという形で原稿を押さえた著者は、人気漫画家の原稿までがその店で販売されていることを発見した。かくして流出してしまった漫画原稿をめぐり、著者とその周辺の長い戦いが始まる。子育て、ペットの世話、そして漫画の執筆というハードな条件の中で、彼女はどう戦っていったのか……。
 他人ごとではない。今でこそメールでの原稿依頼が多く、私も原稿を渡したという証拠はあるし、デジタルコンテンツなのでもとの原稿は自分の手元にある。しかし、書評家としてデビューした頃の原稿については、出版社に渡したきりで、例えばこのサイトに再録しようとすると、雑誌に掲載されたものを見ながら打ち直すしかない。しかも、原稿料に関しては口頭では説明があったけれど契約書を作ったわけではないし、連載を打ち切られたのも電話一本でおしまいであった。零細書評家とはそういうものである。それでもこちらから書類を作ってくれと言いにくいのは私の代わりなど他にもいるだろうから、目の前の仕事は逃したくないという思いからである。
 著者はレディースコミックで「エロ漫画」を描いている。人気漫画家からは蔑みの言葉を投げ掛けられ、他人からは書類を作っておかなかった自分の責任だと言われる。それは立場こそ違え、私には理解できる辛さである。
 にもかかわらず、著者は毎日の生活に追われながらも、漫画原稿を取り戻し、また、今後このような事件が起こらないようにと文字どおり走る。それは、自分がものを創り出す人間で、自分の創ったものに対する愛着があるからなのだ。
 本書は日記という形で、事件発覚から現在に至るまでの経緯を読者に示している。だからこそ、まだ未解決であるこの事件の重さ、大きさが実感できる。そして、現在の出版事情の大きな問題点を行動を通じて明らかにしていく。
 一気に読み切ってしまう、すぐれたドキュメントである。

(2004年5月18日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る