読書感想文


女切り
加門七海著
ハルキ・ホラー文庫
2004年4月18日第1刷
定価600円

 「異形コレクション」のシリーズに発表された作品を集めた短編集。
 古い日本刀に魅入られた老人の末路を描く「女切り」。ハーンの「怪談」を模した「石の碑文」。産まれるなり蔵に入れられた男の子とその家族の運命をたどる「弟」。なくした記憶を取り戻した男の前に待っていた怪異を描く「喜三郎の憂鬱」。因習の残る故郷に帰ってきて神の生け贄にされた妹を追う男の悲劇が綴られた「かみやしろのもり」。隅田川にまつわる伝説を再構成した「すみだ川」。旅の若者が遭遇した寒村の奇妙な儀式が語られる「小さな祠」。悪女の生首に恋をした僧侶の悲劇「虫すだく」。以上8編、どれをとってもフォークロアや怪談などに材をとり、現代にその恐怖を蘇らせた佳作ばかりである。
 闇と光のコントラストが、その趣向を増幅させる。私たちの周囲から奪われた真の闇と、その闇にとりつかれた者たちの破滅の物語という点では、作者の伝奇小説の持ち味を十分に生かしたものといっていい。このような闇を描ききれる作家が現在何人いることだろうか。
 欲をいえば、あとわずかの「狂気」が欲しいところか。登場人物をとりまく環境は異常なのだが、闇にとりつかれた者たちから見えてくるのは、常識の範囲内で行動するごく普通の人間像なのである。何よりも恐ろしいのは人の心。そのもの狂おしさがもう少し感じ取れれば本書の魅力はさらに妖しく輝いたことだろう。

(2004年5月25日読了)


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