1950年代から新聞記者として活躍、特にアメリカ駐在の多かった著者が、50年のキャリアを結集させて書き残す国際政治の舞台裏、特に外交交渉の影の部分が綴られている。貴重な証言である。
本書は、マッカーシーによる〈アカ狩り〉の狂乱から始まっている。これで、熱狂的になった時のアメリカという国の状況が印象づけられる。それは、ベトナム戦争、そしてイラク攻撃に至るまでのアメリカの対外戦争に共通するものなのである。著者は、アイゼンハウアー大統領、ダレス国務長官など、50年代のアメリカの指導者たちに直接アタックしたという経験を持つ。その中から、例えば吉田茂の「アメリカに対して対等にものが言えた首相」というような伝説を覆していくのである。
私はかつて著者の『戦後秘史』シリーズを何冊か読み、その丹念な取材と臨場感にあふれた筆致に時間を忘れて読みふけったことがあった。残念ながら、全冊買いそろえる前に絶版となってしまったが。しかし、戦後という時代の空気をそのまま伝える貴重なシリーズであった。本書は、いわばその集大成といえる。
本書には、日米安全保障条約にある大きな穴や、日本の外交の欠陥、国益よりも私欲に走る政治家の姿などがはっきりと書かれている。これこそ、まさに著者が書き残したかった真実なのだろうと思われる。もっとも、どうしても政治家に対しては好き嫌いがはっきりと出てしまい、米国大統領であれば共和党よりも民主党の人物に対する評価が高いという傾向もある。しかし、なぜそうなったのかという理由も含めて読めば、その偏りもまた貴重な証言だといえるだろう。
現代史をより深く読み取ることのできる力作である。これを機会に、『戦後秘史』『人物現代史』などが復刊されればと願う。
(2004年5月29日読了)