著者は大相撲の中村親方(元関脇・富士桜)夫人である。相撲部屋のおかみさんという大変な役割を果たしながら、大学院に入学し「今日の力士養成のあり方」をテーマにして修士号を取得したというなかなかの人物なのだ。しかも、中卒の力士たちに通信制の高校に通わせて、力士として出世できなくてもちゃんと高卒の資格だけでもとらせようという、研究テーマを実践でさらに深めていくという努力を続けている。
本書は、その修士論文をベースに相撲部屋に関するデータを示したものだ。だから、単なる豆知識的なものではなく、財団法人日本相撲協会の規約などを引用しながら、正確さを期している。そういった正確なデータの裏づけの上に、力士養成の実際の体験などをわかりやすく紹介する。
そういう意味では、本書のタイトルは単に相撲部屋のおかみさんが部屋の日常を綴ったエッセイ集みたいで、どことなく違和感を覚える。せっかく客観性と主観性のバランスのとれた優れた解説本を出したのだから、タイトルもその内容を反映したものにしてほしかった。
現役のおかみさんだからこそ書けたくわしく、そしてうまくまとめあげられた解説である。しかも、力士養成の要諦を書いたところは、教育現場でもおおいに参考になるものだ。人格形成の場としての相撲部屋という視点で書かれた本書は相撲に少しでも興味のある方はぜひ読んでみてほしい。
(2004年5月30日読了)