妻が癌になったと知らされたSF作家は、毎日1話のショートショートを書いて妻に読ませることにした。残された数年で書かれたショートショートは1778話。毎日書くうちに、自分の内面の変化、妻とのコミュニケーションのあり方などが、だんだんとあらわになっていくことに気がつく。そして、ついに永遠の別れの日がやってきた。著者は妻の遺体が安置されている部屋の真上の部屋で、最後の1話を書く……。
老境に入り、互いに死を意識するような時期の夫婦関係とはどういうものなのか。現在の私には全くといっていいほど想像がつかない。ただ、漠然と、どちらかが先にいなくなった時に、残された方の心の空白というものを想像してみるばかりである。
本書を読むと、作品を作るという行為を通じてコミュニケーションをとるという特殊な状況でありながら、「死」というものを意識せずに日常というものを大切にしていこうという著者と夫人の気持ちが胸にしみいってくる。しかし、毎日1話ショートショートを書くという行為そのものが「死」を意識した儀式なのだから、その儀式の上に成立する「日常」はごく平凡な日常を超えたものだったに違いない。
(2004年6月3日読了)