読書感想文


火星の土方歳三
吉岡平著
朝日ソノラマ文庫
2004年5月31日第1刷
定価552円

 箱館五稜郭で戦死した、新選組副長土方歳三の魂ははるか火星へと渡る。かの地には奇怪な獣を操る人々がおり、緑色人、赤色人、黄色人などの国々が群雄割拠していた。土方は天然理心流の剣法と幕末を生き抜いた度胸で強敵を次々と倒し、勇敢な仲間たちを集める。そして、大都市ヘリウムで不逞浪士を取り締まる浪士組を募集していることを知り、その仲間たちとともに立ち上がるのだった。
 エドガー・ライス・バローズの「火星シリーズ」を舞台に、土方歳三が暴れまくるという痛快パスティーシュ。かつて作者は『風とともに去るぜよ』で坂本竜馬とスカーレット・オハラを共演させたことがあるが、本書はその姉妹編である。
 パスティーシュは難しい。なぜならば、原作をきっちりと消化した上で、あたかもその原作の作者が書いたかのように読ませなければならないからだ。作者はみごとにツボを押さえて「火星シリーズ」と「新選組」を合体させた。スペースオペラの主人公に植木等の無責任男を持ってきた腕前はまだまだ健在といえるだろう。さらに、「サイボーグ009」や「モルグ街の殺人」など古今東西の名作のおいしいところをうまく換骨奪胎してみせている。
 珍品というべきか、パスティーシュの秀作というべきか。ともあれ、ここまでやってくれたのだからよしとすべきだろう。〈遊び〉は多いが、〈笑い〉がやや少なめであるのが少々残念。

(2004年6月8日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る