読書感想文


大鬼神 平成陰陽師 国防指令
倉阪鬼一郎著
祥伝社ノン・ノベル
2004年5月25日第1刷
定価838円

 表向きは宮内庁の職員、しかしその実体は日本の霊的国防を一手に引き受けている陰陽師、中橋空斎は、西の方角から計り知れない凶事が襲うことを占いで導き出した。中橋の友人のホラー作家、神山慎之輔は、丹後の神亀村から発見された亀の甲羅の遺跡の謎を追いはじめる。神亀村では右巻のニュートリノの発見、地元出身の力士大神亀の横綱昇進と一気に話題が集中し、祝賀のパーティーが開かれようとしていた。しかし、それらは全てが中橋の占った大凶事につながっていく要素の一つ一つだったのだ。未曾有の大凶事とはなにか、そしてそれを防ぐ方法とは……。
 大ボラ話である。大凶事にはまったく驚かされた。作者のホラー作家としての側面と、爆笑ミステリ作家としての側面が本書では表裏一体となって読み手に襲いかかってくる。とにかく緻密な伝奇推理の結果、導き出されるものはスケールの大きなスラップスティック活劇なのである。
 そのギャップが激しすぎるため、読者は唖然呆然としながらも作品世界に引きずり込まれていくというわけである。いやしかし、この世に数知れず怪獣は生み出されてきたけれど、ここまで強烈なインパクトのあるものはそうはないだろう。しかも邪悪なエネルギーと卓越した強さを備え、かつ珍妙きわまりない怪物なのだ。このインパクトだけでも私は降参してしまったのである。むろん、そこに至る伝奇推理小説のしっかりとした骨格があってこそ、この怪物の存在は許されるのだと言えるのである。

(2004年6月9日読了)


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