読書感想文


蹴りたい田中
田中啓文著
ハヤカワ文庫JA
2004年6月15日第1刷
定価700円

 これまで単行本に収めようがなかった企画ものの短編などもとにかく収録した短編集である。本自体が企画もの的な構成になっているのは、そのような短編も収録できるようにという配慮なのであろう。したがって、本書で初めて田中作品を読もうというような人には向いていないと思う。
 だいたい表題作のタイトルを見ただけでわからん人にはどうしようもない。こうなったらどこまで行きましょうというような決意をもって編集された本だと思う。帯にでかでかと「第130回茶川賞受賞」と刷られているから、愚かな人は間違って買い怒り心頭に達するか騙されたと書店に抗議に行くかするだろう。そういう人は洒落のわからない愚かしい人で、本書を手にする資格のない人だと断じざるをえない。別に作者も編集者も「無知な客をひっかけて騙して買わせてやれ、きひひひひ」などとは思ってないだろうと思う。本書は田中啓文の世界が好きな人たちに向けて、徹底的に凝って作られたものなのである。
 私は作者から本書が送られてくるとすぐに、読みかけの神林長平「膚の下」を読むのを休み、妻が話しかけてくるのに対しても生返事になってしまうほど、むさぼるように読んだ。実は、この文章も、最初は本の内容に合わせて茶川賞の来歴やらなんやらあれこれと私なりにでっち上げて……というのを書きかけたのだが、私が作者と編集者のしかけた遊びを理解できていない読解力がない書評家だと誤解する人がいてはいけないので書き直した。つまり、触発されてそういうことをしたくなるほどよくできた作りの本なのだ。
 内容に関しては、ここでは触れない。駄洒落の中身についてどうこういうのは野暮の骨頂であろう。まず読み、それぞれの形で脱力していただきたい。

(2004年6月12日読了)


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