「あなたの魂に安らぎあれ」、「帝王の殻」に続く三部作の完結編。
月を破壊し、地球を荒廃させた人類は、火星で250年間の人工冬眠に入ろうとしていた。その間に地球を復興させる役割を担わされるのは機械人と、アートルーパーというクローン人間であった。アートルーパーは遺伝子操作で人間とは違う感性や知能を与えられている。エリファットモデルという指揮官タイプのアートルーパーである慧慈は、訓練中に地球残留人組織と遭遇し、リーダーを射殺するが訓練教官はその間に戦死する。負傷した慧慈は入院している病院で人間たちから差別を受け、さらに何者かによって襲われる。命からがら逃げ出した慧慈は、たどりついた工場で機械人のアミシャダイと出会う。アミシャダイにより、人間と機械人の思考の違いを知らされた慧慈は、アートルーパーとは何なのか、自分はどうすべきなのかを考え始める。工場に立て籠った残留人組織制圧に投入されるアートルーパーたち。慧慈は自分と同じエリファットモデルの慧琳、機能を特化させたインテジャーモデルのジェイ、ケイ、エル、エムとともに行動する。反乱軍の代表である萬羽のナノマシンを使用した都市再興計画の危険性を感じ始めた慧慈は、人間たちとは違う方法で地球を救うことを決意するが……。
姿形は人間と同じであり、膚の下には赤い血が流れている。しかし、あくまで人工的に作られた存在であるアートルーパー。この姿形が同じ……人間のシミュラクラであるアートルーパー、あるいは機械人のメンタリティの描き分けぐあいが作者の真骨頂だろう。作者は主人公が自立していく様子を、それこそ丹念に、石を手で磨きあげるように描写していく。
人間の持つアイデンティティーとは明らかに違う。そのようなメンタリティーを描くことがいかに大変なことであるか。そして、それを緊迫した戦闘シーンの中で生かし切るという凄さ。まさに力作である。
もっとも、この丹念さ、そし緊張感の連続がハードカバー上下二段組684ページに渡って繰り広げられているのは、読む側としてはその緊張感を長時間に渡って持続していくのはかなりきつかったとは思う。3年もの間、毎月連載を続けた作者に敬服しつつも、ふっと息を抜けるところや一気に加速するところなども欲しくはあった。贅沢な注文ではあるかもしれないけれど。
とにかく、重く、厚く、そして深い物語である。
(2004年6月17日読了)