先祖代々生っ粋の東京っ子である著者による、「東京方言」を語り尽くしたエッセイ集。実例に即した用例の生き生きしていることや、豊富な語彙など、索引がついていれば「東京語辞典」として使えると思う。
私は京都生れの京都育ちで現在は大阪在住。なにかというと東京が中心というような思想はない。むろん、上京などという言葉は使ったことがない。わざと「東下り」などと言ってみたりはするが。
だからといって、東京が嫌いではない。例えば、落語でも古今亭志ん朝の話芸などは(一度実際に聞いてみたかった!)聞いていて気持ちがよくなる。江戸前の粋というのはこういうことかと思う。異文化としての「東京」には興味があるのだ。好きでないのは「標準語」などというものである。日本中の人間が意思疎通するには必要であると思うし、私も東京に行くと「標準語」に近い言葉でしゃべる。そうでないと意味が通じないからだ。だからといって自分の出身地の訛りを隠すというような卑屈な真似はしたくない。
生っ粋の東京人である著者も、実は文章を書く際に「東京方言」を使ってしまい編集者から再三修正を指示されるそうだ。つまり、本書は方言としての「東京語」、「標準語」に押し迫られて消えつつある本当の「東京語」について書き残したものなのである。
言葉というものは、それが使用されている土地の風土や文化に根ざしたものである。そして、東京という都市の規模が大きくなり過密化したことにより、本来東京に根づいていた文化が消え去ろうとしている。それにともない、「東京語」も消えつつあるのだ。
だから、本書は一地方としての東京をくっきりと描き出すものだといえる。そして、江戸から伝わってきた文化が滅びようとする時に、本書の存在はとても重要なものになってくるだろうと思うのである。まあ、そんなご大層なことを考えず、言葉そのものを楽しめば、それでいいのだけれどもね。
(2004年6月19日読了)