長年赤塚不二雄のブレーンをつとめ、ゴーストライター的な役回りを演じてきたベテラン漫画家による回想記。
雑誌「漫画少年」への投稿から始まり、石ノ森章太郎や赤塚不二雄とともに肉筆回覧誌を作成して漫画家への夢をふくらませていた時代に始まり、トキワ荘に日参した青春時代、フジオプロに参加して「おそ松くん」「もーれつア太郎」「天才バカボン」と立て続けにヒットを出した赤塚絶頂期、赤塚の不摂生と体調悪化に対し表面化した気持ちのずれ、手塚治虫の死、そして赤塚との訣別……。
漫画が一般に広がりひとつの文化として成熟していく過程を、実際の記憶に基づいて描き出している。特に、赤塚不二雄のゴーストライターとして数多くの仕事をしながらも、SF同人誌「宇宙塵」に加入したり第1回SF大会に参加したりしながら自分の道をも模索していったところなどは読んでいて何か切ない気持ちにさせられた。黒子には黒子の誇りがある。そして、ひとつの時代を築いた漫画家と一心同体、いや、時にはその漫画家になりかわってその絶頂期を過ごしたという自負が込められている。そして、赤塚が時代の寵児となっても、その裏に隠していた寂しさや弱さへの思いもつまっている。
日本の漫画史を語る上で、新たにまたひとつ貴重な証言が加わった。ドラマチックであり、そしてスリリングである。これが実話であるということ自体、凄いことだ。
(2004年7月7日読了)