読書感想文


近藤勇白書
池波正太郎著
講談社文庫
1979年1月15日第1刷
2001年12月17日第36刷
定価762円

 新選組局長、近藤勇の生涯を綴った長編小説である。タイトルはまるでガイドブックのようだが、こういうタイトルをつけたのは作者が近藤勇の全てを解明しようとしたということなのだろう。
 本書で描かれる近藤は、最初は江戸の三流剣術道場に養子にきた地方出身のおっとりした若者で、京都についてからは使命感に燃える武者で、芹沢鴨を倒して以降は急激な出世に本来の自分を見失った男へと変化していっている。境遇によって変わっていく人間の哀れさ、おかしみを巧みに描いていく様子は、まさに名人芸といえるだろう。特に、体裁を整えようとする状況に対しては、作者自身が地の文でくだくだしく説明するのではなく、隊士の永倉新八や原田佐之助らの口を使って言わせている。ここらあたりに根っからの都会人であった作者の露骨さを嫌う粋な風情が現れているように思われる。
 また本書は、明治維新に至る道を、敗者の立場から描き切ったものだといえる。敗者となったために追われるはめに陥った彼らだが、実は薩長の志士たちよりも筋が通っていたりする。
 時代に翻弄される人間というものの哀感を、さらりと粋に描き出した名作だといえるだろう。

(2004年7月8日読了)


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