民営のロケット打ち上げ会社「ケニア・モンバサ打ち上げ会社(KMLC)」の技術者、朝比奈小夜は、オーナーであるハシュマト・アンワールが直々に持ち込んできた発射計画に対し、その警戒の物々しさに不審を抱く。ロケットを直接調べようとした彼女はガードマンに見つかり、仕事の相棒であり恋人でもあるヤンセンを殺され、軟禁されてしまう。一方、大阪の天神橋筋六丁目にあるゲームソフトメーカー「テンロックス」の経営者兼プログラマである新田は、インドネシアのゲーム会社から依頼を受けたロケット攻撃シミュレーションのプログラムを完成させる。しかし、それがゲームではなく実用のものとして使われることを彼が知った時、彼は命を狙われる身となり、彼をガードしていた恋人の雅美は刺客に襲われて殺されてしまう。朝比奈が打ち上げさせられようとしていた、そして新田がプログラムした兵器の名は「蒼穹の槍」。それは、麻薬マフィアの首領であるアンワールが、麻薬撲滅のために平和維持駐留軍に自衛隊を派遣している日本に対して示威行動として打ち込むテロ兵器であった。新田は彼をガードしていた暴力団の若頭、佐伯の手づるでケニアに飛び、KMLCを目指す。新田に救われた朝比奈は日本大使館を通じて「蒼穹の槍」について連絡するが、「蒼穹の槍」の発射時刻はじりじりと迫ってきていた……。
ロケット開発、兵器開発、シミュレーションゲーム開発など、様々な技術がリアリティを持って描き出され、多数の登場人物が入り乱れる中で、「蒼穹の槍」阻止というストーリーの芯をしっかりと保ちながら、手に汗握るアクションが繰り広げられる。
ここに登場する人物たちは、敵役も含めて、自分の仕事に誇りを持つ者ばかりである。しかし、それらはそれぞれ方向性が違い、その結果悲劇が生まれる。その悲劇のスケールの大きさが本書の見どころともなる。ストーリー展開はスピーディーで、特に悲劇が現実となる一瞬の迫力、そして計画阻止の行動の運びなど、優れたエンターテインメントとなっている。
説明部分の煩瑣なところ(もっとも、それがリアリティを支えてはいるのだが)や、ストーリー展開をとばしていく中でどうしてもはしょったと思われる部分もあるが、そういった欠点を補って余りあるスリル感が本書にはあるのだ。
新田という人物が特に生き生きとしている。それは、この人物が大阪の人間であるという設定からくるものなのではないだろうか。作者は兵庫県出身。関西人だからこそ描き出し得る人物なのかもしれない。
1冊ごとに面白くなっていく作者の小説が、今後どのように面白さを増していくのか。それを楽しみにさせてくれる会心作である。
(2004年7月21日読了)