読書感想文


福音書=四つの物語
加藤隆著
講談社選書メチエ
2004年7月10日第1刷
定価1600円

 福音書とは、新約聖書の中で、イエスの生涯と思想を描いた物語である。なぜかこの福音書は4種類あり、書き手(と思われる人物)の名をとって「マルコによる福音書」「マタイによる福音書」「ルカによる福音書(「使徒行伝」を加えて「ルカ文書」と総称する)」「ヨハネによる福音書」と名づけられている。同じようにイエスの生涯を物語にしながらも、これらの福音書はそれぞれに違いがある。著者は、それぞれの福音書を比較、分析し、どのような違いがあるのか、それはなぜなのか、なぜ4種類の福音書が書かれたのかを探っていく。
 最初に書かれたとされる「マルコ福音書」は、イエス以外の全てを批判しイエスの言葉そのものに従うようにという特徴がある。それに対して書かれた「マタイ福音書」は、イエスの言葉が教団内の新しい律法=掟となるように意図されている。「マタイ」と同時期に書かれたと思われる「ルカ文書」は、普遍的にキリスト教を広めていこうとする姿勢が見られ、使徒たちの役割がイエスに近い比重で描かれている。少しおくれて成立した「ヨハネ福音書」は、旧約聖書の神とアブラハムの関係を神とイエスの関係にもあてはめ、信者以外のものに対する排他的な立場に立っている。
 私はキリスト教信者ではない。それだけに、例えば「倫理」の授業でキリスト教を教える際に、教科書に書かれている記述をそのまま教えるだけでいいのか、間違ってはいまいかと悩む時がある。本書では、4つの福音書の違いが明確に分析されているが、逆にいうとそれらの違いを超えて共通する部分があるのだ。それは、本書の分析の中から自ずと見えてくる。だとすると、新約聖書での根本的な考え方は、それらの違いを超えたところにある神やキリストへの考え方であり、共通する教えであるだろう。その部分については自信をもって生徒たちに教えることができるだろう。
 新約聖書に含まれた矛盾を明らかにすることによって見えてくる本質。著者が読者に読み取ってほしいのは、実はその部分ではないかと感じたのである。

(2004年7月23日読了)


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