読書感想文


小説探偵GEDO
桐生祐狩著
ハヤカワSFシリーズJコレクション
2004年7月31日第1刷
定価1800円

 三神げどは、小説探偵である。といっても、失われた幻の本を探す、というような探偵ではない。彼は小説世界に入り込むという特殊な能力の持ち主なのだ。彼のもとには、小説の本筋から外れた脇役たちが相談にやってくる。作家が書かなかった脇役たちも、その世界では生きていて、書かれなかった事柄について解決してほしいのである。
 このアイデアが秀逸である。現在、部数は少ないものの様々なジャンルで数多くの小説が生み出されている。その一冊一冊に世界があり、登場人物が大量に作り出され、捨てられている。それは一見どうでもいいような存在なのかもしれない。しかし、小説を愛するものにとっては、そんな人物にだって愛着を感じずにはおられないものなのだ。作者はそのような心理を「小説探偵」という設定でみごとにすくいあげている。
 本格ミステリで生死を明らかにされないままストーリーが完結してしまった少年。作者の都合で続編が刊行されないままになっておりちゅうぶらりんなままのやおい小説のキャラクターたち。心残りがあるまま死刑を宣告されてしまった海外文学の囚人。作者が旧作を改稿しようとしているために運命が変わってしまうのを阻止しようとする暗黒街小説のギャングたち。未完の伝奇時代小説で行方のわからないままになっている刀を求める忍者。作者の手によって現実世界に連れられて来て人々を襲うホラー・ファンタジーの異人たち。それらは別々に登場しながらも次のエピソードにかかわりを持ち、主人公はRPGゲームの登場人物にまじって小説世界に行ってしまった現実の人間を求めてその世界に潜入することになる。
 本書に登場する小説は世間でベストセラーといわれるものではなく、マニアックなファンをもつジャンルのものが多い。それぞれにモデルはあるものの、桐生祐狩はそれらを自家薬篭中の物として描き出す。ここに、作者の小説そのものに対する、なかんずくB級の作品に対する偏愛を感じるのは私だけだろうか。
 世の中の中心から外れたもの、多くの読者から忘れ去られる運命にあるもの、そういうマイノリティに対する徹底したこだわりが、本書を支えている。そして、小説という誇張化された世界と現実の世界が交差する時、見捨てられかけた登場人物が自己主張を始めるのである。それも小説世界以上に誇張化された形で。
 日本ホラー小説大賞作家の手による少し歪んだ独自の世界を堪能してほしい。本書は小説そのものを偏愛する者たちのためにある。

(2004年7月19日読了)

(本稿はネット書店サイト「bk1」に掲載されたものをそのまま使用しております。ご購入はこちらから)


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