読書感想文


少女大陸 太陽の刃、海の夢
柴田よしき著
祥伝社ノン・ノベル
2004年7月30日第1刷
定価1200円

 流砂(ルイザ)が住む地下に作られた都市は、女性だけの特別な町だった。200年前に行われた戦争で地上は住めない場所となり、地下に住む彼女たちは冷凍された精子をもとに女性だけを選別して産み続けてきたのだ。しかし、その平安が破れる日がやってきた。マザーを中心とした体制に対し反乱を計画している人々がいたのだ。反逆者たちの会話を立ち聞きしてしまった流砂とその親友の美沙は、首謀者である陽那に捕らわれてしまう。脱出を試みる2人の前に現れたのは金髪の不思議な少女、ブルーであった。ブルーは地下都市のことを全く知らないが、強い超能力をもっていた。一方、地上ではわずかに生き残った人々が自然を友として暮らしていた。オーストラリア大陸の内陸部に残されたリゾートホテル跡を使用して生き延びているスカーレット・タウンの少年ロニーは、誰の耳にも聞こえない声をとらえるようになっていた。その声を発信したどこかわからない都市に住む少女はルイザと名乗った。ルイザの居場所を突き止めようとするロニーたちは、町を略奪し人々を殺戮し出産可能な女だけを助けて移動してまわる略奪者の襲来を感じとる。地下都市で起こる内戦の結果は、略奪者に対する小さな町の抵抗は、そして2つの町を結び付ける秘密とは……。
 本書は人間社会滅亡後の世界を描く、再生の物語である。感受性の豊かな少年と少女を主人公に、自分の生活している世界がたやすく崩壊してしまうそのもろさと、なくなったところから生まれる希望を描いている。そして、そのために作者が用意した世界は、若干は首をかしげる部分がないわけではないが、練りこまれた設定になっている。
 子どもから大人になる時期に、人は知らなければ幸せでいられたと後悔したくなるようなことも知らされてしまう。感受性が強ければ強いほど、そのショックは大きく、傷は深い。その傷を直視しながら、人は大人になっていくのだろう。ファンタスティックな設定を土台に、作者は人が大人になる瞬間を鮮やかに切り取り、浮かび上がらせている。ここには作者独自のロマンティシズムがとてもいい形で息づいているのだ。
 どうやらシリーズ化されそうな雰囲気である。主人公たちがどのような大人になっていくのか。大人になった彼らを待ち受けるものは何か。今後の展開に期待大である。

(2004年7月29日読了)


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