読書感想文


甲子園球場物語
玉置通夫著
文春新書
2004年7月20日第1刷
定価680円

 1924年8月1日に完成した甲子園球場は、2004年で満80歳を迎える。日本で初めての本格的な野球場として計画された甲子園であるが、なぜそのような球場が作られたのか、完成までにどのような経緯をたどったのか。完成後に行われた様々なイベント(なんと妙高高原から雪を運んできてスキーのジャンプ競技の大会を開いたりもしている!)を紹介し、戦時中には芋畑になり、戦後は進駐軍に接収され……。それでも少しずつ改良を重ねられて現在も創建当時の威容を引き継いでいる。本書は、そのような甲子園球場の歴史をコンパクトにまとめたものである。
 著者は毎日新聞大阪本社の編集委員。1989年にも「一億八千万人の甲子園」という同様の本を出しているが、長らく絶版になっていた。本書はその後の動きを加え、こぼれ話などを省いて要点を絞り込んだ形で書かれたものである。一つの野球場の歴史がこういう形でまとめられるというのはなかなかないことである。甲子園球場はもはや文化的遺産といえるのではないだろうか。
 本書の場合、甲子園建設の経緯から戦後の接収解除までを中心にとりあげている。歴史をきちんと書き残しておかねばという著者の思いがそこから伝わってくる。今回は新書という形での出版だけに、前回のようにあまりその存在を知られないまま絶版になるということもないだろうし、版元も大きい(前回は「オール出版」という小さなところが版元であった)ので、より多くの人の手に行き渡ることだろう。ただ、本書には「一億八戦万人の甲子園」に関しては一切触れられていない。内容的にはほとんど変わっていないのだから、本書は前著の復刊に近いものだといえるのだから、あとがきに一言あってもよさそうなものだが。
 とにかく、甲子園は日本一の球場だと、改めて感じさせてくれる1冊である。

(2004年7月29日読了)


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