宝塚歌劇の大ファンである著者が、太平洋戦争時の宝塚歌劇の状況を当時のタカラジェンヌや古くからのファンなどの取材を通して綴っていく。小林一三の理念と、それを守り続けた演出家たち。そして戦時中にもファンに夢を与え続けたタカラジェンヌたちの様子が目に見えるように描き出されていく。
著者の目はただただ当時の宝塚にだけ向けられているのではない。戦地で軍人たちが悲愴な死をとげている間、そのことを知らずに日々を送り、突如歌劇場閉鎖を知らされて初めて戦局の悪化を現実のものとしてとらえることになったファンたちの戸惑い。機関誌「歌劇」の広告から当時のファンの社会的階層を明らかにする。物資が不足している中でジェンヌであることを貫き通した女性たちの気持ち。そういったものが歴史を形作る一つの要素としてあるこを示しているのだ。
そして、その象徴として今も現役のジェンヌでありつづける春日野八千代をクローズアップする。戦前戦後を通じてトップスターであり、なおも専科の「生徒」として記念の舞台に立つ彼女の姿こそが宝塚歌劇そのものを示しているということなのだ。
また、国策歌劇を上演しながらも、戦後に誰一人として戦犯として裁かれなかった事実をもって、宝塚歌劇が国威発揚の仮面をかぶって「タカラヅカ」であり続けた証左としている。
芸能史を綴った書物として、また新たに貴重な証言が加わった。宝塚歌劇ファンならずとも、芸能に関心のある人ならばぜひご一読を。それだけではなく、銃後の戦史として戦記ファンにも読んでいただきたい。古今の戦争がそうであるように、太平洋戦争もまた軍人だけの物語で綴られるべきものではないのである。
(2004年8月5日読了)