読書感想文


六世笑福亭松鶴はなし
戸田学編
岩波書店
2004年7月27日第1刷
定価3200円

 戦後の上方落語界を引っ張っていった六代目笑福亭松鶴。没後20年近くたった現在も、その存在感は色褪せない。松鶴とともに上方落語を建て直していった「上方落語四天王」の桂米朝、三代目桂春團治、五代目桂文枝、さらには松竹芸能社長で松鶴をマネージメントしていった勝忠男、戦後、松鶴の弟弟子として笑福亭松朝を名乗っていたが事情で廃業した阪本俊夫といった人々に、六代目の弟子である笑福亭鶴瓶がインタビューをする。幕内の人間でなければわからない貴重なエピソードが、虚飾のない形で語られていく。六代目の生前に香川登志緒や三田純市らがインタビューしたものも再録されているために、六代目本人の肉声も読むことができる。枝鶴、松鶴襲名時の披露口上や、持ちネタ一覧、そして詳細な年譜もつけられていて、まさに資料としてもまとまった仕事である。
 さすがは著者だと感心した。今、ここで遺しておかなければならないことは何か、それがわかっていなければ、こういう本は作れまい。現在の上方演芸関係のライター、あるいは編者として最も信頼できる人の一人である。
 六代目の人間的魅力が証言とともに伝わる一方で、例えば米朝はここでもあくまできちっとした証言を残すべく落語家というよりは評論家のような姿勢で語っているのに対し、文枝は五代目宅に住んでいた関係から家族的な役割で語り、春團治は落語家の息子という同じ立場から感じたことを語るというように、「四天王」それぞれの個性が浮き彫りになってくる。これは聞き手である鶴瓶のうまさもあるだろう。
 読んでいるうちに、六代目のCDを聴きたくなってきた。

(2004年8月12日読了)


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