読書感想文


ガダラの豚
中島らも著
実業之日本社
1993年3月25日第1刷
定価1942円

 アフリカの呪術を研究する大学教授、大生部は、研究資金を稼ぐためにテレビのバラエティなどに出演したりするタレント教授である。超能力者を自称する清川と超能力のトリックをあばくマジシャン、ミスター・ミラクルが対決する超能力特番に出演したのをきっかけに、アフリカの呪術師にインタビューするという番組の企画が持ち上がった。大生部と助手の道満、滝川、ディレクターの水野、そして大生部の妻の逸美と長男の納らがケニアに行くことになる。一方、8年前のアフリカ調査に同行した際に、娘の志織を失ってしまった逸美は、知人に進められていった新興宗教にとりつかれてしまう。大生部はミスター・ミラクルの協力を得て教祖のトリックをあばき、妻を救い出すことに成功する。ケニアに渡った一行は、呪術師の村クミナタトゥを訪問する。8年前に大生部が行った時と違い、長老のオニャピデに生気がない。ナイロビからやってきたという呪術師バキリが村に現れ、強い呪をかけているのだという。大生部たちを襲う様々な変事。バキリが呪術に使う呪具バナナのキジーツを奪い返した彼らは命からがら日本に戻る。しかし、バキリはバナナのキジーツを取り返すために日本にまでやってくる。強大な呪術の前に、次々と変死する関係者。そして大生部一家にも魔の手が迫ってきた……。
 11年ぶりに再読した。最初は内容を確認するためにざっと目を通すだけのつもりであった。しかし、前回と同様、読み出したら止まらない。超能力のトリックをあばく導入部、新興宗教との対決を経て、呪術にひそむトリックを徹底的に洗い出しながらも、展開部ではクミナタトゥで繰り広げられる呪術のかけあいなど、どこまでがトリックでどこからが本当の超能力か、読者を戸惑わせる。そして山場となる東京でのバキリとの攻防の凄まじさ。
 導入部で出てきた新興宗教の教祖が、思わせぶりな退場の仕方をしたのに結局活用できなかったりするというように、構成は必ずしも完璧ではない。しかし、合理的でありつつも神秘的であるという二律背反を楽しみながら、作者は読者に対してあの手この手で楽しませてくれる。最後の最後まで結末を予測させるいとまもなく物語は進行する。
 書かれてから10年以上たつのに、その面白さは全く色褪せていなかった。それどころか、前回読んだ時以上に面白かった。人間の弱さと強さ、脆さと強靱さ、笑い、怒り、喜び、哀しみ、あらゆる要素が渾然一体となって襲ってくるのである。そこには、小賢しいところや格好をつけたところは一切ない。体当たりでこの渾然一体がぶつかってくるのである。
 傑作である。現在は文庫化されているので、未読の方はぜひお読みいただきたい。これこそ、エンターテインメントである。

(2004年8月18日読了)


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