カントというと、最初に日本で紹介された時に翻訳した人が悪かったのか、「定言命法」だの「仮言命法」だの「格率」だのと独特の用語がふんだんに使われていて取っつきにくい印象を受けるわけだけれど、著者は全く別の切り口からカントについて分析をしてくれる。エゴイズム、親切、友情、虚栄心……そういった普段私たちが使用している言葉について、カントはどのように考えていたか、そして、なぜそのような考えが導き出されてきたか。カントの生い立ちや交友関係などをもとに、カントの考え方を興味深く呈示しているのが本書である。
彼はその生い立ちから、友情や恋愛などは信じられない人間に育っていったこと。芸術に関してはほとんどといっていいほど関心がなかったこと。そういったものが、彼の哲学や倫理学に反映されているのだ。
本書により、少し近づき難かったカントが、その理論とはうらはらに、欠陥も多い人間として近づいてくる。だからといって、カントの哲学が貶められるわけではなく、より深くその思想に触れることができるようになる。カント入門としては薦めにくいけれど、カントの思想についてあと少しで理解できそうなのに、という者にとっては最適な一冊ではないだろうか。
(2004年8月17日読了)