瑠花はボーヴァル王国のサンルイ大学に留学するため、特別試験を受けに欧州まで来た。トゥーリエ教授を尋ねて行った彼女は、大学図書館の書庫で教授が変死するのに遭遇する。彼女とともに教授の変死の謎を解明しようとするのは、教授の助手的な役割をしていたルメイエールであるが、なんと彼は王の血統が断たれたボーヴァル王国の次期国王になるように要請されていた。ボーヴァル王国では過去にもそのようにして血統が絶えかかった時に、新たな王を立てるようにしないと呪われるという文書が出現し、呪を認めたローマ法王庁の許可のもとに王国を維持したことがあったのである。トゥーリエ教授は瑠花への試験問題の入った封筒にその文書を入れていた。王国を揺るがす秘密がなんと若い留学生に託されていたのだ。文書に残された謎とは何か。そして、教授の変死の真相は……。
タイトル通り「架空の王国」を舞台にしたミステリタッチの物語である。ここで扱われるミステリは、教授の変死事件と王位継承にからむ人々の行動が主になっている。しかし、作者の主眼目は、実はそれよりも「国家」のありようとはなにかということを問いかけることにあったのではないかと思われる。
作者らしく、虚実がないまぜになった欧州史は実にリアリティがある。「架空の王国」を維持していくために、ウラではどのようなことが行われていても不思議ではない。いや、歴史や文化を含めた「国家」という概念そのものが「架空」なのではないかという問いかけが、本書からは感じられるのである。
(2004年8月27日読了)