人気精神科医による「大阪学」。著者は大阪で生れ育ち、灘中学から灘高校、そして東京大学に進み、現在も東京を中心に活躍している。したがって、期待したのは東京に移り住んだ大阪出身者から見た大阪論だった。
しかし、著者は大阪の地盤沈下をデータで確認した上で、おそらくは持論であろう政治や経済、教育に関する改革案を示し、大阪にそれをあてはめれば活性化するのではないかという提言をするにとどまる。内容的には、特に大阪で実施しなくてもいいようなことも多い。
大阪出身で、そんなに大阪を愛しているのなら、まずご自分から本拠地を大阪に移して活動しはったらどないだす、と言いたくなってきた。奥付から考えると、企画された時期はタイガースが優勝した前後と思われる。そごて、便乗本の書き手として大阪出身である著者に白羽の矢が立ったのだろう。改革案には見るべきものがあるけれども、だからといってこれをもって「大阪学」とはいえないだろう。
大阪の人間に向けて東京から発信されたメッセージ。繰り返すが、大阪に帰る気のない人にここまで熱く語られたとしても、大阪人はそう簡単に首を縦には振らないだろう。いわば「大阪を捨てた男」に偉そうに言われて平気でいるほど大阪人はお人よしではなかろうと思うのである。
(2004年8月29日読了)