釣り具店を営む東堂と刈部、そして中華料理店を経営する李は、かつては3人組の宝石泥棒であったが、現在は犯罪には関わってはいない。ところが、神戸から野崎刑事がやってきて連続宝石泥棒事件について聞き込む。さらに、刈部が拾ってきたファックスを電話のジャックにつないだとたんに「氷川大橋で30cm大の山女魚を釣ってくれたら2万円で引き取る」という謎のメッセージが送られてくる。刈部は魚屋で調達して2万円をせしめようとするが、東堂は本当に釣ったものを渡さなければ気がすまない。釣り上げた山女魚を約束の場所に持っていくと、現金どころか鈍器で殴られて川に落ちてしまう始末。留守番電話に録音されていた謎のセールス電話の声と、時効寸前の1億円強奪事件の犯人の声が同一だと気がついた刈部は、自分たちが巻き込まれた事件に逆にわざとのっかって、時効前に1億円をかっさらってやろうと発案する。気が乗らない東堂であったが、李を加えた3人の男たちが気づかないうちに、1億円争奪戦は彼らを巻き込む形で動き始めていたのであった……。
更生した悪党たちがそれを上回る悪党に利用され、引きずり回されながらも逆転を図るという痛快な物語。二転三転するストーリー展開に、東堂たちとは関係ないはずの連続宝石強盗事件までが知らぬ間にからんでくる絶妙の構成。憎めない悪党たちに思わず感情移入してしまう。
そして思うのは、この作品でも、作者の描き出す主人公は、何か失ったもの、埋まらないものを追い求め、探し続けるのだということだ。失敗しても懲りることなくあがき続ける愛すべき奴ら……。上質の娯楽作品だけが味わわせてくれる後口のよさもまた格別な、おもろうてやがて哀しきクライム・コメディである。
(2004年9月1日読了)