4本のホラー短編を収録。
白い部屋に閉じ込められた時にどのような心理になるかという生体実験のアルバイトをした大学生片岡は、実験が終った後、至る所にあいている穴を見るようになる。その穴の中にはいると、そこにあるものに同化するということがわかった。彼は新入生の佐伯碧子に恋をする。映画や音楽の趣味もぴったりあった彼女に想いを告白した彼だったが、みごとに振られてしまう。碧子は軽音楽部のプレイボーイ桜井に憧れていたのである。どうしても碧子への想いを断ち切れない片岡は、桜井の体にあいた穴にはいるが……(「内と外」)。バブル期に就職した橋本は、自分がそろそろリストラされるという恐れを抱いていた。家庭では妻にも娘たちにも相手にされず、仕事は単調でストレスはたまる一方である。そんなある日、橋本はオフィスを歩き回る影法師を目撃する。医師の処方した抗鬱剤も効かず、影法師の姿はどんどん増えていく。その影法師は次第にはっきりと姿を現してきた。それは、リストラされたかつての同僚たちであった。彼らの正体は……(「影法師」)。7年間も引きこもり生活を送っている新堂は、ネットゲームなどに明け暮れる毎日であるが、ネットサーフィンをしていて見つけた「ひとみちゃんの部屋」にはまってしまう。それは女性の私生活をリアルタイムで撮影するのぞき部屋サイトであった。ひとみちゃんに対する妄想がはち切れそうになったその時、彼の頭の中の妄想は現実化して次々と外に飛び出していく。ゲームのキャラクターなどが町を闊歩する事態はどんどんエスカレートし……(「妄想」)。私立探偵の向田は、行方不明になった高校生の美佳を探し出してほしいとその母親から依頼される。彼女から携帯に一方的にかかってくる電話だけが糸口だ。彼女が示す場所に行っても見つからない。しかし、彼の持つ特殊能力は、美佳がそこにいることを確信させる。彼女が迷いこんだのはどのような場所なのか……(「サカイヨ」)。
ホラーである。にもかかわらず、何か滑稽なのはなぜだろうか。人間の持つ愚かしさは、笑いと恐怖の紙一重の位置にあるのだろう。もてないのにその気になってしまった若者、居場所がなくなって影の薄くなった中年サラリーマン、引きこもり続けて自我が肥大した男、都会を浮遊し厭世的になった高校生。ここに登場する人物たちは、みな自分というものを見失ってしまったものばかりであるように思う。そして、その事実に正面から立ち向かう勇気は、ない。それは私たちにもある負の部分である。それを極端に描き出したところに本書の面白さはある。
私たちは自分を見失って暴走してしまう登場人物を笑うことができるだろうか。なんとも滑稽なその姿に自分を重ね合わせた時、それは現実味のある恐怖としてのしかかってくるのではあるまいか。
作者の優れた描写力があるから、それは非常に切実なものとして読み手に伝わってくる。
愚かしくも哀しい「人間」という存在を存分に描いた短編集である。
それにしても、本書のタイトルはもう少しなんとかならなかったものか。あえてこういうタイトルにすることで、読んだ時の効果を上げようとしたのだろうか。このタイトルからは本書が手軽に楽しめる企画もののような印象しか伝わってこない。本書のような苦いユーモアを楽しみたい読者層にアピールするかは少し疑問だ。
(2004年9月9日読了)