久々の書下ろし長編。
主人公はヨブ。彼は吸血鬼であるが、少女ミカを助けたその日から血を吸うことを封じ込んでしまう。一方、吸血鬼たちを退治する組織「コンソーシアム」では、かつて自分の妻子を餌食にされ復讐に燃える男ランドルフをはじめとし、鎧に身を固めて吸血鬼狩りを粘り強く行っている。ヨブと並ぶ最強の吸血鬼カーミラが、何者かに殺される。カーミラを殺したのはJ。吸血鬼を食らい、その臓器を自分自身に結合させさらに強力な力を得る〈ストーカー〉である。Jを倒すために多数の吸血鬼が集結する。その吸血鬼と、そしてJを倒すためにランドルフも動く。ミカを人質にとられたヨブは、「コンソーシアム」に自らおもむき、ドクターの発明した対吸血鬼用の新兵器「内骨格」を渡され、その凶器を装着してJのもとへ向かう。最後に勝ち残るものは誰か。サバイバル・ゲームが始まる……。
吸血鬼は吸血鬼らしく、人類の敵である。そうでなくては、と思う。人間と共存し事件を解決する吸血鬼もよいけれども、やっぱり吸血鬼にはその禍々しさがほしい。本書では、ヨブだけが吸血鬼らしくない生活を送っているが、それ以外の吸血鬼はみな人類を見下し、残酷で、傲慢で、救いがない。そして、その吸血鬼を餌食とする〈ストーカー〉の歪み切った性格ときたら!
本書では、3つの勢力がそれぞれ生き残るためにとどまるところを知らない戦いを繰り広げる。そのアクションシーンのスピード感は、これまでの作者にはあまり見られなかったものかもしれない。そういう意味では、これも作者の新境地といえるかもしれない。心優しき吸血鬼などという存在が主人公であるのも、意外な気がする。
しかし、登場人物の行動に込められた純粋な悪意や、物語の骨格を支える考証の緻密さなどは、作者ならではといえるだろう。また、吸血鬼化した人間のものの感じ方の急激な変化の描写は、作者の本領発揮というようにも感じる。
なお、本書は続巻があることを示唆した形で完結している。作者が本書で描いたのはただのプロローグなのかもしれない。だとしたら、殺戮と流血の宴はまだまだ続きそうだ。期待して待ちたい。
(2004年9月11日読了)