久々の書下ろし長編。
不明事項を処理する不明省では不明事項処理のための新しいシステム開発のために赤井屋システム・エンジニアリングを中心とした各企業が3年計画のところを9年かけてまだシステムを完成させられなかった。プロジェクトからおろされた企業の担当者の呪いの言葉は神の耳に届き、東京を強烈な熱波がおそう。エアコンの稼動率は急上昇するが、日本の環境は世界一であり冷房などは撲滅すべきだという主張をもつ大日本快適党は都会のエアコン室外機を破壊するテロ工作を実施する。不明省に勤務する多々見不運は統制局保管5課に配転になる。その部署の倉庫には事象の地平が隠されていた。CIAの工作員が、日本支配をもくろむ元KGBのバランジン少佐が、処分されるところを少佐に助けられた水棲人たちが、大日本快適党の面々たちが第5課の倉庫を狙って集結する。そして、不明省の新システムはいつまでたっても完成しそうにないのである。
ストーリーを楽しむ物語ではない。むやみに詳細な状況描写に対して、物語の全体像は漠然としてつかもうにもつかみ切れない。しかし、東京を包み込む熱波のように、作者でしか生み出せない独特の空気が作品全体を覆っている。つかみどころもとらえどころもなく、それでもそこには作者の作り出した世界が確かに存在する。理性ではなく悟性で感じとるべき小説なのだ。
不明省というお役所仕事のためだけに存在しているとしか思えない部署、唐突に登場して唐突に自殺する諜報員、何の伏線もなしに現れる水棲人……。物語のセオリーを意識的に踏み外し、物語のようで物語ではないが、やっぱり物語である。このとらえ所のなさを私が完全に理解したとはいえないかもしれないが、ナンセンス文学の傑作であると確信はできるのだ。これは夜に見る夢の世界なのだ。妙に具体的でありながらあり得ない事柄が次々と起き、それでもなんだか辻褄のあっている、あの夢の世界なのである。そして、そういう世界を自然体で描き出せる作家は、得難い存在だといわねばなるまい。
(2004年9月12日読了)