読書感想文


いとしこいし漫才の世界
喜味こいし・戸田学編
岩波書店
2004年9月16日第1刷
定価2600円

 夢路いとしさんがお亡くなりになって1年。いとこい漫才の魅力を伝える1冊が出版された。序文に桂米朝、いとしこいしをしのぶエッセイ執筆に上岡龍太郎、河合隼雄、小松左京、沢島忠、西川きよし、藤田まこと、森光子と豪華なメンバーを揃えた。
 特筆すべきは編著者の戸田学による「夢路いとし・喜味こいしの時代」という論文だ。しゃべくり漫才の歴史をたどりながら、いとしこいしの評伝をまとめ、上方漫才を概括できるものに仕上げている。これ1本だけでも本書は非常に貴重な資料となっている。さらに、毎日放送のプロデューサー高垣伸博がかつて放送した「いと・こいを科学する」という番組で出されたデータをまとめたものや、漫才作家の大御所である織田正吉によるいとこい論も、いとし・こいしの漫才がなぜ面白いのかという理由を探る充実したものになっている。
 資料としては、いとし・こいしの代表的な漫才台本が、喜味こいしの解題つきで多数収録されているのがありがたい。ただ、いとこい漫才の場合、こうやって活字にすると、以外に面白みがない。これは逆に、このコンビの「話芸」の素晴らしさを証明するものだと感じた。つまり、どんな台本であっても必ず笑わせるという両者の芸のスタイルは、活字ではとうてい表せない素晴らしいものだったということを示しているとはいえまいか。例えばダイマルラケットだと、台本自体も実によくできている。その上で卓越した芸があるから、爆笑に導かれるのだ。
 私は「いとし・こいしの時代」というべきものはなかったと思っている。ダイラケの時代、やすきよの時代、ダウンタウンの時代はあったといえる。しかし、その時代それぞれに、必ずいとしこいしは自分のポジションというものをつかんで、どっしりと存在していた。そういう意味では、やはりこのコンビは希有な存在だったといえるだろう。
 資料的価値も高く、読みごたえもある。戸田学がまたひとついい仕事をした。いまや、上方演芸の研究に欠かせない人物である。

(2004年9月18日読了)


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