東京に憧れ、大学入試を機に郷里を離れた沖村清美は、入居したアパートの自室、203号室に異臭を感じる。やがて、妙な物音、カーペットのぬくもりなど、誰かが部屋にいるような気配を感じる。大学で知り合ったボーイフレンドの新里やアルバイト先の同僚であるゆき子らに相談するが、彼らは一見親身になってくれているようで、本当に彼女の恐怖をわかってはくれない。部屋にいられなくなり、部屋にいれば眠られなくなりと、彼女の神経は次第に病んでいく。部屋をかわろうと郷里の母親に電話をしても、やはりまともにとりあってくれない。部屋に棲むものはいったい何なのか……。
サイコ・ホラーのようではあるが、精神的な圧迫を感じさせるものの正体など、サイコ・ホラーの枠にとどまらないところがある。主人公が真綿で首を絞められるようにじわじわと精神を蝕まれていくその圧迫感といったら! こういった狂的なものを書かせたら作者は天下一品であると思う。
ところで、本書を読んでいて感じたのであるが、本書のテーマはそういった狂気とは別のところにあるのではないだろうか。主人公は表面的に東京に憧れ自分の根っこを断ち切りたいと安易に郷里から逃げ出してくるという設定である。自分の根っこというものを軽視し、東京という都市の重みにつぶされていく主人公に対し、作者は容赦なく痛みつけていく。自分の居場所に関して深く考えることのないものに対する憎悪すら感じられる。東京を甘く見るな、うわべの姿に憧れるな。そういうメッセージが込められているのではないだろうか。
(2004年9月23日読了)