読書感想文


食卓にビールを
小林めぐみ著
富士見ミステリー文庫
2004年8月15日第1刷
定価540円

 主人公は女子校に通う高校生で、SF作家で、しかも新婚ホヤホヤの新妻である。彼女のまわりには、シュレディンガーの猫が現れたり、どこかの銀河帝国の人々が戦っていたり、帝国の後継者が亡命してきたり、不可思議な出来事が起こるのであるが、彼女は全く動じず臨機応変かつ強引に事件を解決する。彼女の最大の関心事は、夫とともにおいしくビールをのむためにどのような夕食のおかずを作るか、なのである。
 巻き込まれ型のヒロイン、というのともちょっと違う。非日常的な出来事が日常であるにもかかわらず、主人公はごく普通に高校生活をおくり、主婦をしているのである。そこらあたりのバランスの取り方が実にうまい。SFのアイデアも無理がなく、これだけガチガチのSFを書きながらホーム・コメディーに仕立て上げているあたり、作者の真骨頂といえるかもしれない。
 ただ、主人公の設定にはやはり無理がある。学園小説にも家庭小説にもSF小説にも対応できる設定ということでこういうことになったのだろうが、それならそれで夫とのなれそめなどを暗示する鍵をまぎれこませたり、3つの顔をどう使い分けていくかの苦労なども少しはまぎれこませておかないと、リアリティというものがなくなってしまう。高校生の時は高校生の顔なのに、つい主婦らしさが出てしまう、であるとか、そういうシーンがあれば、さらに面白さが増幅するはずであろう。
 面白い小説であるが、もう少し奥行きがほしいというのは、ぜいたくなのだろうか。私はそうは思わないのだが。せっかくいい内容なのに、なんだかもったいないなあというように思うのである。

(2004年10月1日読了)


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