読書感想文


封印作品の謎
安藤健二著
太田出版
2004年10月25日第1刷
定価1480円

 一度は発表されながら、再録が封じられた作品がある。テレビや映画ならば、ビデオやDVDで再発売されることが決してない作品。小説や漫画ならば、単行本に収録されることのない作品。著者はそれを「封印作品」と名付ける。
 本書では、テレビ「ウルトラセブン」の第12話〈遊星より愛をこめて〉、テレビ「怪奇大作戦」の第24話〈狂鬼人間〉、映画「ノストラダムスの大予言」、漫画「ブラックジャック」第41話〈植物人間〉・第58話〈快楽の座〉、PCゲーム「O−157予防ソフト」がなぜ封印されたかを、当事者の証言や当時の状況などを綿密に駆使して解明していく。
 そこには差別的な表現、抗議、自粛など、様々な要因が含まれている。中には「ノストラダムスの大予言」のように抗議を受けた部分をカットすることによって解決したのにも関わらず一部の業者により海賊版が流出したりするなどの事情で正規版の発売が逆に封印されてしまっているものまである。
 本書は興味本位で書かれたものではない。著者は産経新聞の元記者で、自分も「封印」に関わってしまったゲームソフト「O−157予防」について書くにあたり、同種の「封印」が行われている事例を調査して、「封印」について鋭いメスを入れようとしたものなのである。
 著者が取材しようとすると激しい拒絶反応を示す円谷プロ。手塚治虫の意志をなるべく守ろうとして「封印」を解かないでいる手塚プロ。中には当時の状況を知る者が亡くなっているのにも関わらず「封印」だけが一人歩きをしているものもある。差別的表現に対しその背景をよく理解し、改善できるものは改善し、あるいは説明責任をしっかり果たせばすむところを、かたくなに自粛してしまう構図は、森達也「放送禁止歌」で掘り下げられたテーマと同質のものがある。多くは抗議した者が誰かもわからなくなっていたり、抗議した当事者がそのことについて忘れてしまったりしていたりさえするのに。
 現在でも「封印」されたままのこれらの作品に対して、著者はその「封印」を解くべきだとばかり主張しているわけではない。ただ、なぜ「封印」が起きるのか、その理由を問い続けることにより、メディアの役割や社会情勢というものを浮き彫りにしようとするだけである。作品そのものに対する思い入れのないそういった姿勢が、かえって作品に対する冷静な評価となり、「封印」の本質に近づくことができているのではないかと思われる。
 作品そのものについて理解しようとせずに極めて表層的に抗議されたものもある。誰が抗議したのか、それを探り出すのが困難な作品もある。そのようなものに対して再び考え直すこの試みは、貴重なものだ。「封印」したことにより問題の本質から目をそらしてしまうことよりも、いったん「封印」を解くことにより「表現」とは何かを問い掛けることの方が大切なのだということを、本書は教えてくれる。

(2004年10月17日読了)


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