大学生の毛利圭介は、風間と名乗る男からの奇妙な電話を受ける。風間はその後に起こる地震を予知してみせたのである。風間の誘うままに指定された中華料理店に行った彼は、彼と同じ電話を受けた8人の男女と出会う。そして、風間が現れ、1年ほど前に戻ってやり直しができると彼らに宣告する。彼らは風間によってランダムに選ばれたメンバーだというのだ。風間を含めた10人は1ヶ月間の準備期間をおいて集合し、風間の操縦するヘリコプターに乗り込む。〈黒いオーロラ〉と名づけられた裂け目に飛び込んだヘリコプター。そしブラックアウト……。気がついた時には、圭介は1年前の1月の時点の自分の体に意識だけを移し替えていた。記憶しいる通りに物事が進むうちに、彼は自分が神のようになったような気分を味わう。しかし、いっしょにリピートしてきたメンバーが、なぜか1人ずつ死んでいく。リピートについて知っているものの仕業なのか。圭介はシナリオライターの天童やゴルファーの池田らとともにその謎を解こうとする。そして、翌年の10月に起こる〈黒いオーロラ〉に再度飛び込んでもう一度リピートをしようという計画をたてたのだが……。
制限つきのタイムスリップという条件下で、全てを予知しているはずの登場人物たちが予定外の出来事に翻弄されていくという展開と、秘密を共有している仲間たちが次々と死んでいくという連続殺人(?)事件の謎解きがみごとにとけあっている。とにかくいい意味で予想を裏切っていく展開の妙味に唸らされた。
さらに唸らされたのは、登場人物の心理描写である。主人公の圭介の疑り、信じ、驚き、驕り、恐れ、悩み……という刻々と変わる心の動きが無理なく描写されている。これがあるからこそ、物語にリアリティが出てくるのである。
結末の着地点も鮮やか。そこに凝縮されるのは、救いようのない人間の愚かさなのだ。SF的な設定をみごとに生かした本格的なミステリ小説だといえるだろう。その設定がなければ成立しないという点では、西澤保彦を想起させるけれど、SFと紙一重である西澤作品よりもミステリに寄っているように思う。
とにかくおもしろかった。なんとも奇妙な手触りを残す、作者ならではの快作である。
(2004年11月28日読了)