全寮制の私立第四ボロヴィニア学園中等部に通う木戸美弥は、4月になって寮の部屋替えで学園中の憧れの的である白鳥すこやか、古代ペルシャのに起源を持つ格闘技フワルシュタ部に所属する小林燐、年下のように幼い古府薫と同室になる。新しい学年での生活にも慣れた頃、一人の生徒が自殺未遂を起こす。いったんは命をとりとめたその少女は再び自殺をし、それとともに怪物に変身してしまった。実はこの世界は悪神ドゥルジと美神アシャの対決する戦場となろうとしていたのだ。ドゥルジが動き出したのは、アシャの〈神の光輪〉クワルナフが覚醒しようとしているからなのだった。クワルナフは薫の体を借りて目覚めようとしてる。彼女を守る役割を果たすのは戦士バアル・オーム。そして、美弥とすこやかはバアル・オームの戦士として覚醒する。学園の外では、行方不明になる人々が増加していた。彼らはドゥルジの誘いにより自殺し、怪物と変化していたのである。ドゥルジの目的はクワルナフが覚醒する前に薫を消してしまうこと。美弥とすこやかが世界の平和のために立ち上がる!
作者があとがきで書いている通り、「単純明快勧善懲悪戦闘美少女学園小説」である。ではあるが、敵の邪悪さや、いじめられている少女の心理描写など、臓腑をえぐるようなえげつなさであり、邪悪さである。ここらあたり、ヤングアダルト専門の作家は生ぬるいなあと思わざるを得ない。だからこそ、正義の側に立つ少女たちの活躍が際立つのであるから。
また、敵を倒してからどうなったかを描いているのところに実は独自性がある。たいていは敵を倒しました、めでたしめでたしで終るものだが、本書はそうはなっていない。戦うのは14歳の少女たちなのである。どんな激しい戦いも、若い彼女たちにとっては実は青春の1ページでしかないのだ。青春小説というのは、青春時代の描写をするだけでなく、青春とは何かを描くべきなのである。そこがきっちりと押さえられているところに、この作品の奥行きというものを感じさせる。
ところで、本書はある古い特撮ドラマをモチーフにしているのであるが、その使い方が田中啓文的なのには驚いてしまった。そうか牧野さん、あなたもこうきますか。
いろいろな意味で作者の力量を感じさせる一冊である。このテーマでこういうものを書いてしまうのだから、やっぱりうまい。
(2004年12月4日読了)