読書感想文


電脳娼婦
森奈津子著
徳間書店
2004年l1月30日第1刷
定価1500円

 6編の短編より構成されたエロティックSF小説集。
 「この世よりエロティック」では、死んでから冥界にいった親友の加虐的な性生活を描く。「シェヘラザードの首」は、性的奴隷ロボットの首を拾った貧しい若者の愛が描かれ、「たったひとつの冴えたやりかた」では完璧に満足のいくセックスを求める女性に雇われた女性の望まざる性生活が描かれ、「電脳娼婦」では刑罰のために仮想空間で娼婦とされた人間と客の被虐的な快感が描かれ、「少女狩り」では奴隷として買われた少年が主人のゲームの駒として抵抗できない少女を犯しながら抱く愛情を描く。本書でもっとも構成やテーマがSF的なのは「黒猫という名の女」であろう。性的刺激が超能力発動の鍵となる人々の愛憎が、ミステリタッチで描かれていく。
 物心二元論という考え方もあるが、作者の小説を読んでいると、身体的な感覚は理性を刺激するものであり、精神と身体を切り離すことはできないと確信してしまう。理性が苦痛を快楽に変換し、その快楽は苦く甘い微妙な味わいをかもし出す。
 以前、作者の小説について「愛」という切り口から書評を書いたことがあったけれど、本書ではそれに加えて「理性」をキーワードとしてみたい。男性の性欲は肉体的に満たされればそれでいいのかもしれないが、女性はそうではないという説を聞いたことがあるが、本書が示す快楽はまさにそのとおりである。精神的な充足を伴わないセックスに快楽はない。というよりは、肉体をさいなむ快感は精神的な欲求を満たさなければ生まれ出ないのだ。
 本書を本格SFと呼ぶのにはためらわれる部分もあるけれど、想像力の広がりを読書の快楽とするという点では、本書は間違いなくSFといえるだろう。ただただセックスシーンを単調に描く凡百のポルノ小説では得られない快感なのである。

(2004年12月16日読了)


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