審判、トレーナー、グラウンドキーパー、ブルペンコーチ、グラブ職人、スコアラー、スカウト。いずれもプロ野球を支える裏方たちである。著者はその道の達人たちに取材し、それぞれの人たちが最も印象に残している場面を切り取り、その状況を再現している。各編とも上質の短編小説を読んでいるような味わいである。著者の年齢からいうと、リアルタイムでは実感できるはずのない事柄もあるはずなのだが、細かいところまで取材をし、それをみごとに再構成している。読者は、ここに書かれている事柄をまるでその場にいるかのように追体験できるのである。
ノンフィクションのあり方としては、ふた通りあるように思う。取材している著者が明確に表に出てくるものと、著者の姿は存在せず人物や事件が主体となるものとの二つに、である。本書は後者なのであるが、それでもここまで著者の存在を見せないものも珍しい。
しかし、著者は主人公たちの物語をつむぎだすのに徹することにより、自分の主張を訴えているのである。華やかに活躍する選手たちを支える者たちの誇り、そしてその喜びや悲しみ。これらをていねいに描くことにより、著者はすべての職業人に共通するプライドを浮き彫りにしていく。そして、決して表面に出ることのない裏方も含めて世の中は成立しているのだということを訴える。
例えば、出版業界でいえば作家をとりあげるのではなく編集者や営業担当者、ブックデザイナー、印刷会社、製本会社、書店に焦点をあてているのと同じだと考えられるし、その他の業界でも同じことだろう。つまり、本書で描かれる裏方の生き方は、どのような世界にも共通するものなのである。
私は、その生き方がここまで生き生きと描かれていることに驚嘆する。プロ野球ファンならずとも読んでほしい内容の優れたノンフィクションである。
(2004年12月18日読了)