新選組局長、近藤勇が故郷である多摩の人々に書き送った書簡の記述を芯に、それ以外の証言も真偽を入念に検討して構築した、新選組の概史である。著者はまえがきで、これまでの新選組研究は土方歳三や沖田聡司に偏ったものが多く、また近藤書簡をあまり重視せずに書かれたものが多いという批判をしている。つまり、近藤を中心にまわっていた新選組なのに、その近藤の証言を軽視するのはおかしいのではないかという考え方なのである。
もちろん、それは近藤勇を美化するものでないことはいうまでもない。近藤の残した書簡から、近藤と新選組の思想転換や、運命を分けた分岐点を探ろうとする試みである。
著者は、近藤たちが「尽忠報国」つまり「尊王攘夷」を旗印にした集団であるということを明らかにしていく。ただ、ここで行われる攘夷は幕府中心のものである。つまり、近藤らの目指したものは幕府が朝廷の命を受けて攘夷を実行することだったのである。しかし、諸外国の実力を目のあたりにした薩長が開国に転じていく中で、新選組もまたその思想を変えざるをえなくなっていく。
著者の細かな検証により、新選組という集団の性格がつぶさにわかっていく。そして、近藤勇が水木しげる言うところの「星をつかみそこねる男」だということが明確になっていくのである。
ところで本書の発行は大河ドラマ「新選組!」の製作発表があった時期であり、私の所持している本がドラマが始まってすぐの時期の版であることから、面白いことがわかってくる。ドラマ「新選組!」が史実に忠実でないと指摘してNHKに抗議するような人たちは、本書を読んで予習をしていたのではないかということを感じたのである。大河ドラマで注目される人物の人気を当て込んで出される本は多いが、このような学術的なものでドラマを計る物指しにするような視聴者はそもそもドラマを楽しむという遊び心のかけらもない人であるだろうと思う。まあ、本書の著者にはまったく関係のないところでの話なんですけどね。
(2004年12月23日読了)