読書感想文


パンドラ 上
谷甲州著
早川書房
2004年12月31日第1刷
定価1900円

 動物生態学者の朝倉知幸は、渡り鳥チョウゲンポウの異常行動を調査する中で、知能が発達しているという仮説をたてる。一方、JAXA職員の辻井汐美は、実験用のラットを宇宙ステーションに運ぶミッションの最中に、流星群が宇宙ステーションに降り注ぐという事故にあう。ステーションの破壊された部分に残って作業をしていた乗員との連絡が取れなくなり、汐美たちは捜索しに行くが、ラットが突然変異して産まれた謎の生物に襲われる。なんとか命は助かったものの、その生物を地球に逃がしてしまった汐美は、地球に降りて捜索班に加わる。朝倉はマレーシアで獣害を調査している時に、進化した類人猿がサルたちを率いて人間の集落を襲うという事件に巻き込まれる。そのリーダーは射殺したが、新たにインドネシアでも同様の事件が起こり、朝倉は知能を持った未知の存在が人間の社会を滅ぼそうとしていることに気がつく。宇宙ステーションを襲った流星群は、〈パンドラ〉と名づけられた知的生命体を地球に送り込み、地球を〈パンドラ〉の星に改造しようとしていることが次第に明らかになっていく。最短5年で人類滅亡というシミュレーションの結果を受け、国連は〈パンドラ〉の計画を阻止しようと対抗策をこうじはじめたが……。
 宇宙からやってきた謎の知的生命体によって地球が〈パンドラ・フォーミング〉されていく様子を、著者はきめ細かな積み重ねで少しずつその動きを描写する。漠然とした謎が、登場人物の行動の結果、少しずつ明らかになっていく。その過程で、読者は常に先の読めない状態のまま物語の世界に引きずり込まれていく。
 このまま人類は滅亡していくのか、〈パンドラ〉とはどのような生命体なのか。謎は下巻にそのまま持ち越されていく。
 1つの物語の中での密度の濃さは、作者のいつもながらのタッチといえる。一行たりとも読み流すことのできない、緊迫感あふれる小説世界である。ただ、これもいつも思うのだが、気をゆるめられるようなところが少しでもあればと思わないでもない。それをしないのが作者の特徴と言われれば反論のしようもないのだが。
 ともあれ、謎はほとんど解明されていない。下巻の展開が楽しみである。

(2004年12月26日読了)


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