2004年はプロ野球創設70周年の年であったが、その年にリーグ再編という動きがあり、プロ野球の運営やあり方が問われたというのは皮肉なことであったと思う。本書は、大阪近鉄バファローズがオリックスブルーウェーブに吸収合併されることが発表された6月13日から、11月2日に東北楽天ゴールデンイーグルスの新規参入が決定するまでの間の球界の動きを時系列に忠実に追ったものである。
朝日新聞の記者たちはスタンスを選手会側におきつつも、事実関係を客観的に記している。そして、自分たちの意見は編集委員の西村欣也がリアルタイムで執筆したコラムをそのまま掲載することによって示している。古田敦也選手会長へのインタビューを付し、当時の心境を吐露させているため、記事の内容についても当事者の証言という裏打ちがなされている。
これは貴重な記録である。今回の騒動の経緯をたどることにより、動かしていったのは誰か、どのような意図があったのかがはっきりと浮き上がっているからである。
本書には含まれなかったが、バファローズの岩隈投手がゴールデンイーグルスへの移籍を主張し続けた根拠が、自体の進行の中で明らかになっている。オリックスの小泉球団社長は「近鉄の選手一人一人の希望をきく」ということで合併を選手会に了承させているのである。
このようにきっちりと記録が一冊の本という形で残されるということは、同じ騒動が今後起きた際に、必ず参考になるはずである。また、プロ野球史全体をまとめたものであればカットされるような細かい動きも記録されている。そこに本書の価値がある。
ところで、こうやってまとめたものを読んでいると、いかに根来コミッショナーが何もしなかったか、オリックスの宮内オーナーが強引な手法を取ったか、そしてなんといっても読売の傲慢な姿勢が、はっきりしてくる。
改革はまだ端緒である。それは、本書に記録されたことのうち、手がつけられてないことがまだまだあるということからもわかる。2005年、コミッショナー事務局が手をこまねいていたら、ファンは本書を鼻先に突き付ければよい。オーナー会議やプロ野球実行委員会が約束した事項が、ここにはちゃんと記録されているのだから。
(2004年12月31日読了)