読書感想文


切断都市
芦辺拓著
実業之日本社
2004年12月25日第1刷
定価1800円

 準キャリア組の悟桐警部は勤務地の大阪でたまたま画廊に入り、不思議な展示を目にする。「切断都市」と題されたその展示は、江戸時代の「大阪百景」の錦絵と人体をジグソーパズルのように結合させた人体模型であった。製作者の河浪漂治により、廃藩置県の過程で摂津の国が新政府の意図で大阪府と兵庫県に分断されてしまったことなどのレクチャーを受ける。画廊を出た後、道頓堀にに浮かぶ死体が発見された。頭や手足を切断されたその女性の胴体を調べていく途中、イベントプロデューサー冴木麻衣子の首だけの死体が目撃されたというしらせが入る。ところが、目撃者が警察に通報している間に、その首は忽然と消えてしまう。しかし、身体的特徴から胴体だけの死体が冴木のものだとはわかった。さらに、天王寺公園で右腕が発見される。ところがその腕は冴木のものではなく、男性のものであった。同じ男性の左足が新世界で発見され、捜査が息詰まりかけた時に、なんと河浪漂治がネット上でまるで犯人が犯行を告白するかのように登場してきた。連続して発見された死体にこめられた意味とは何か。河浪は真犯人なのか。捜査本部のオブザーバー的な役割を果たす悟桐の孤独な捜査が始まった。
 切断死体の謎、死体発見に関わるトリック、意外な真犯人など、読みごたえのあるミステリである。私は、作者のテーマである「大阪」という町に関わる問題が事件に大きく関係しているという点に注目して読んだのであるが、官僚的な体制が都市作りというものを破壊し、無計画に大阪そのものをおかしくしてきたという指摘が作品のポイントとなってはいる。
 とはいえ、事件そのものの直接の原因をその大阪破壊に求めるのではなく、かなり強引な結び付け方をしているところに、少し食い足りなさを感じた。文化としての都市のありかたを、殺人事件との関わりで展開していくというのは、やはり難しいことなのだろう。とはいえ、作者が指摘する「分断都市」の問題は、大阪の文化を考える上で大きなものであるといえるだろう。それを明らかにしただけでも、本書には大きな価値があると思うのである。

(2005年1月8日読了)


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