読書感想文


蒼穹のファフナー
冲方丁著
メディアワークス電撃文庫
2005年1月25日第1刷
定価550円

 日本の本土からはるか離れた離島の中学校に通う少年、真壁一騎。彼は学校の友人たちと平凡な毎日を送っていた。彼自身は運動に非凡なものを持っていたのだが。幼い頃の親友であったが、長い間口もきいていなかった皆城聡士に放課後呼び出された日、島に異変が起こる。何者かの襲撃を受け、厳戒体制に入ったのだ。そして、一騎は〈ファフナー〉と呼ばれる人型巨大兵器の操縦に適性があるとされ、病気で外にも出られなかった少女、羽佐間翔子の騎乗する〈ファフナー〉とペアを組んで戦うことになる。実は、世界は謎の敵、フェストゥムの襲撃を受け続けており、彼らはフェストゥムと戦うために育てられていたのであった。いきなり戦いの渦中に投げ込まれた少年たちを待ち受ける運命は……。
 作者自身が監修・脚本を担当したテレビアニメーションの小説化。ただし、本書では少年たちが戦いに至ることになった過程を入念に書き込むところでとどまっており、本来重要なストーリーとなるべきフェストゥムとの戦いやその結果についてはほとんど描かれていない。
 そこのところはアニメーションとして作られたものであるから、活字ではなく映像で楽しんでほしいということなのではないかと推測される。本書は、アニメーションを補完するものとして生み出されたものなのではなかろうか。
 したがって、本書の見どころは少年たちの揺れ動く心の描写にある。閉ざされた世界で戦いという苛烈な状況に身を置くことになった主人公たちの戸惑いや決意などが巧みに描き出されているのである。そういう意味では、本書は優れた青春小説であるということができるだろう。ただ、アニメーションの方を見ていないと、肝心の戦いの目的や敵の正体はまるでわからない。できれば戦闘やその結末などを描いた続編も読んでみたいものである。きっと主人公たちの苛酷な戦いが読みごたえのある本格SFとして綴られるに違いないだろうから。

(2005年1月9日読了)


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