あなたはこれからの9日間、連休を満喫できる立場にある。仕事の帰りに買い物に寄ったスーパーで、キャンペンガールに声をかけられたあなたは、王様印の缶詰をたっぷり買った。あなたがマンションの自室でオイルサーディンの缶詰をあけたとたん、そこからターバンを巻いた魔法使いが現れ、望みを言えとせっつかれる。なにか魂胆があると考えたあなたは、決して答えようとはしない。そこへペンギンの姿をした魔女が登場し、謎の呪文を唱える。あなたと魔法使いはたちまち別の缶詰に詰められてしまう。誰かがあけてくれるまで、あなたと魔法使いは缶詰に閉じ込められたままだ。やっとこさ缶詰から出たかと思うと、魔女はいろいろな姿に変わってそのたびにあなたたちを缶詰に閉じ込める。中東のテロ地帯に、米大統領の特別機にと、あなたたちは次々と思わぬ場所に移動させられる。この逃走劇の果てにあなたを待つものはいったいなんなのか……。
昔に流行したゲームブックのような二人称小説。二人称である必要性があるのかどうかは少し疑問も残るが、目まぐるしく変わる舞台のスリルを自分のものとして味わうことができるように著者がしかけているのかもしれない。
そう、著者は本書でいろいろなしかけをしている。二人称もそうだが、目まぐるしく変わる場面もまたそのしかけの一つである。一見行き当たりばったりのように見える展開も、未整理のままながら思わぬ結末でまとまっていく。しかけがうまくはたらいているといえるだろう。
とはいいながらも、全ての展開が一つの糸でつながっているというわけではなく、ただ転がっていく軽妙なリズムを楽しむだけにとどまっているという印象は残る。週刊誌に連載されたものをまとめたものだが、初出の時にリアルタイムで読んだ方が楽しいのかもしれない。
(2005年2月2日読了)