世界史を動かした流通品として、著者は「世界商品」があるという。世界のどこにでも必要とされる商品で、綿織物や茶、そして本書のテーマである砂糖があげられる。サトウキビの栽培に適した土地を求めてヨーロッパ各国は中南米に植民地を獲得した。そして、インフルエンザなど現地にない病気で現地人が壊滅状態となった土地に入植したヨーロッパ人は、アフリカとの奴隷貿易で獲得した黒人奴隷たちを植民地に投入し、プランテーションを経営する。むろん、サトウキビはそこに自生していたわけではない。その土地の植物相を変え、住民の構成も変えてまでしても、砂糖という貴重で人気のある商品を欲しがったのである。そして、それはアジアの植民地で栽培された茶と出会い、イギリス人の生活習慣をも変化させ、ひろまっていく。やがて安価になった砂糖と茶は産業革命期のイギリスでは労働者のカロリー源となり、さらにひろまっていく。ただ、サトウキビは、ヨーロッパ国内で栽培されるビートにそのシェアを奪われ、あるいは税率の低下などにより過剰供給となり、植民地ごと見捨てられるという傾向が見られるようになる。かくしてプランテーションのあった場所にはモノカルチャー経済と貧富の格差だけが残り、南北問題が生じるようになっていくのである。
砂糖という商品に着目し、世界史を面でとらえながらその中で砂糖や茶の果たした役割を明らかにし、現代に残された課題にまでつなげていく。その論の立て方や、説得力のある展開で、ヨーロッパによる世界支配の歴史をわかりやすく把握することができる。
中高生向けの新書ながら、世界史の複雑な構成を俯瞰的にとらえているため、例えば世界経済というものがどのように形成されていったか、奴隷貿易がなぜ大規模に進められたのかなど、さまざまな歴史の要素を奥深く知ることができる。したがって、社会人であっても十分に役にたつものとなっているのである。
「砂糖のあるところに、奴隷あり」
本書で紹介されているトリニダード・トバゴ首相、エリック・ウィリアムズの言葉である。この言葉の持つ重みが、読了後ひしひしと伝わってきた。
(2005年2月4日読了)