少女オルタは「災厄の魔女」と呼ばれ、物心ついた時から幽閉されて暮らしていた。ある時、村を〈帝国〉の軍隊が襲う。幽閉されていた塔も破壊され、オルタは自由の身となる。〈帝国〉の軍が狙っていたのは、オルタだったが、突如現れたドラゴンによって助けられ、彼女は砂漠の集落へ。そこにはワームライダーと呼ばれる人々が暮らしていた。集落の古老、ポンタ爺から世界の仕組みについて教わるオルタ。〈旧世紀〉と呼ばれる科学万能の世界が滅んだ後、人間は原始的な生活を送っていたが、ドラゴンとその〈乗り手〉により、科学の暴走を防ぐシステムであった〈塔〉が倒され、〈旧世紀〉の力を手に入れた〈帝国〉の支配が始まったのだという。しかし、〈帝国〉の力が強くなると、再び三たびドラゴンは〈乗り手〉とともに現れ、〈帝国〉のシステムを破壊していったのだという。しかし、勢力を盛り返した〈帝国〉は、科学力を解放する〈亜人〉アバドの力を借り、ドラゴンに似たワーム、ドラゴンメアを産み出して支配を強化しているのだという。そして、ワームライダーの集落にも〈帝国〉軍はやってきた。自分が災厄を招いているのだと信じ込むオルタは、〈帝国〉の軍をドラゴンとともに蹴散らした後、自分は何もなのかを探す旅に出る。紆余曲折を経て〈帝国〉にたどりついたオルタの果たすべき役割とは……。
シューティングゲーム「パンツァードラグーン」の世界設定をもとに、作者が作り出したファンタジー世界である。私はもとのゲームを知らないのでどこからがオリジナルなのかはわからないが、主人公オルタとドラゴン、そして人工物と自然の対立など、本書の主要なテーマやストーリー展開は作者のオリジナルなのだと思う。
人間には定められた役割があるのか。そして、それがあるとして、その役割を果たすことが本当の生き方なのか。本書が突き付けるテーマは重い。特に、世界について全く知らない少女が世界と自分のかかわりを知ることで受ける衝撃の大きさが、そのテーマを増幅していく。
しかし、作者は少女を悩ませたままにはしておかない。少女は常に動かなければならない状況に追い込まれ、動きながら様々なものを獲得していく。それは「感情」であったり、「愛情」であったりする。激しく動くストーリー展開から、人間らしさとは何かということを探り出そうとする作者の筆致に、読み手はぐいぐいと引き込まれていく。
アクションの激しさと繊細な心の動きがうまくからみあった、秀作である。ファンタジーに食指が動かない方にも、ご一読を薦めたい。
(2005年2月6日読了)