第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。
ハンバーガーショップの正社員、草野哲也は自動車での帰宅途中、ひき逃げ犯が逃走するのを目撃する。被害者は大学生らしい若い男。雨の中でずぶ濡れになりながら警察に通報した草野は、翌日ひどい風邪をひいてしまった。そのせいで、ひき逃げの被害者が自分の前に現れるという幻覚を見てしまう。いや、それは幻覚ではなく、被害者、横井亮太の幽霊だったのだ。しかも亮太の幽霊は、人なつこく話しかけてくる。亮太は亮太で死んだはずなのにまるで以前と同じような意識のある自分に驚いてしまっていた。亮太は実家で行われた自分の葬儀に参列し、自分の死を実感する。草野と亮太は協力してひき逃げ犯人を探すことにする。そこに、霊を見ることのできるハンバーガーショップのアルバイト、南も加わって、3人には不思議な友情が芽生えてくる。果たしてひき逃げ犯は見つかるのか。亮太は昇天できるのか……。
ほんわかとした手触りの、心あたたまるファンタジーである。特に、仕事に追われ続け疲れ切っている草野や、若くして自分の生を断ち切られながらもそれをあっさりと受け入れてしまっている亮太、霊が見えるせいで辛い思いを抱えている南という3人のキャラクターの書き分けが実にうまく、その会話のテンポのよさもあいまって、とても快く読める。幽霊が主人公でありながら、陰惨なところがほとんどない。
パターンとしては映画「天国からきたチャンピオン」を思い出させるが、キャラクター造形や物語の進め方のうまさで、また違う味をだしているといえる。新人とは思えないほど、そこのところが達者なのである。
ただ、三人称と一人称が節ごとに切り替わるという手法を使っているのだが、その切り替えの規準がはっきりしていないので、そうしたことによってあらわれるはずの効果がうまく出ていない。また、幽霊のメカニズムや昇天するとはどういうことなのか、なぜ草野には亮太の幽霊だけが見えるのかといった細部の設定に甘さが感じられる。おとぎ話のような物語なのだか、そのような点は特に追及すべきでないのかもしれないが、人物の設定などの書き込みがていねいになされているだけに、バランスとしてはあまりよいとはいえないのではないだろうか。
作者は大人のためのおとぎ話をつむぎだす独特のセンスを持ち合わせているように思われる。この路線を続けていくと、非常に面白い存在になるのではないか。そう感じさせるデビュー作である。
(2005年2月9日読了)